ある日、いつも買っているペンを補充しようとしたら、棚から消えていた。ネットで調べたら「廃番」の二文字が出てきた。文具好きなら一度は経験する、あの喪失感について語らせてください。
文具の廃番というのは、予告なく、静かにやってきます。ある日突然、いつものペンが棚にない。店員さんに聞いたら「取り扱いが終了しました」と言われる。メーカーのサイトを見たら「生産を終了しました」の一行があるだけ。お葬式もない、告知もない、ただ消えている。これが廃番の作法です。非常に薄情な作法です。
廃番の怖いところは、「気づいたときにはもう遅い」という構造にあります。限定品や期間限定の商品は「今しか買えない」とわかっているので心の準備ができますが、定番商品の廃番は違います。「いつでも買える」という安心感のもとで長年愛用していたものが、ある日突然終わっている。これは完全に不意打ちです。人生の不意打ちワースト10に入ります(個人の感想です)。
「廃番になりそうな予感」というのも文具好きには訓練で身につく感覚で、「最近このペン、SNSで見かけなくなったな」「ロフトの棚の面積が減ってきた気がする」「メーカーのサイトで商品ページが簡素になった」などが前兆とされています。経験を積んだ文具好きは、この予兆に敏感です。しかし予兆に気づいても、人間はなかなか動けません。「まだ大丈夫だろう」という楽観主義が、別れを遅らせます。
廃番になったと知ったとき、文具好きが経験する感情には、実はいくつかの段階があると思っています。
第3段階の「在庫を買い占める」は、笑い話のようで、文具好きの間では割とリアルな行動です。廃番が発表されると、その商品の在庫が全国の文具好きに瞬時に知れ渡り、翌日にはAmazonの在庫が消え、翌週には転売品が定価の3倍で出回ります。文具は戦場でもあります。
のではなく、「愛した人の数が足りなかった」
ということかもしれない。
廃番の本当の原因はたいてい「売れなかったから」です。どんなに一部のファンに熱狂的に愛されていても、全体の販売数が基準を下回れば生産は終わります。これはビジネスとして当然の論理で、メーカーを責めるのは筋違いです。でも「なんでみんなもっと買わなかったんだ」という気持ちが湧いてくるのも正直なところです。廃番になる前にもっとおすすめしておけばよかった、と思う文具が誰にでも一本はあるはずです。
そう考えると、「文具の話を人にする」という行為は、単なる布教活動ではなく、好きな文具を廃番から救う社会貢献でもあります。文具好きが熱く語りすぎて引かれる現象がありますが、あれは廃番防止活動の一環です。これからは引かれながらも語り続けましょう。文具のために。
最後に、廃番と向き合うための心構えを一つ。「いつかなくなるかもしれないから、今使う」。限定カラーを引き出しに眠らせている場合じゃないし、気に入ったペンは毎日使うべきだし、好きなノートは惜しまず開くべきです。廃番になってから「もっと使えばよかった」と後悔するより、今この瞬間に全力で使い倒す。それが文具好きの、廃番への最良の向き合い方だと思っています。
……とはいえ、在庫を20本確保している廃番のペンが引き出しにあることは、ここでは黙っておきます。
📌 廃番との向き合い方、3箇条
①「いつかなくなるかもしれない」と思いながら、今日も使う。好きな文具は惜しまず使い倒す。
②好きな文具は人に語る。布教は廃番防止活動でもある。引かれても語る。文具のために。
③在庫の買い占めは……まあ、気持ちはわかります。ほどほどに。転売はだめです。
