ある日、いつも買っているペンを補充しようとしたら、棚から消えていた。ネットで調べたら「廃番」の二文字が出てきた。文具好きなら一度は経験する、あの喪失感について語らせてください。

文具の廃番というのは、予告なく、静かにやってきます。ある日突然、いつものペンが棚にない。店員さんに聞いたら「取り扱いが終了しました」と言われる。メーカーのサイトを見たら「生産を終了しました」の一行があるだけ。お葬式もない、告知もない、ただ消えている。これが廃番の作法です。非常に薄情な作法です。

廃番の怖いところは、「気づいたときにはもう遅い」という構造にあります。限定品や期間限定の商品は「今しか買えない」とわかっているので心の準備ができますが、定番商品の廃番は違います。「いつでも買える」という安心感のもとで長年愛用していたものが、ある日突然終わっている。これは完全に不意打ちです。人生の不意打ちワースト10に入ります(個人の感想です)。

🕯 廃番になった文具の典型的な最後の言葉(想像)
  • R.I.P.
    「今は在庫があります。まだ大丈夫です」
    ── 廃番発表直後、楽天の在庫確認画面で
  • R.I.P.
    「残り3点です。今すぐ購入をおすすめします」
    ── Amazonの煽り文句。正しい。
  • R.I.P.
    「お探しの商品は見つかりませんでした」
    ── 廃番から数ヶ月後。もう戻ってこない。
  • R.I.P.
    「中古・コレクター商品:¥2,800(参考価格¥165)」
    ── プレミア化した廃番ペン。悲しい。

「廃番になりそうな予感」というのも文具好きには訓練で身につく感覚で、「最近このペン、SNSで見かけなくなったな」「ロフトの棚の面積が減ってきた気がする」「メーカーのサイトで商品ページが簡素になった」などが前兆とされています。経験を積んだ文具好きは、この予兆に敏感です。しかし予兆に気づいても、人間はなかなか動けません。「まだ大丈夫だろう」という楽観主義が、別れを遅らせます。

廃番になったと知ったとき、文具好きが経験する感情には、実はいくつかの段階があると思っています。

📋 廃番を知ったときの感情の5段階
1
否認「まさか、見間違いだろう」
メーカーのサイトを3回確認する。キャッシュを消して再読み込みする。何も変わらない。
2
怒り「なんで告知なしなんだ」
公式Xに文句を言いそうになる。思いとどまる。でも思いとどまれない人もいる。
3
取引「在庫を買い占めれば大丈夫だ」
全国のロフト・東急ハンズ・Amazon・楽天を巡回する。10本確保する。安心する。1ヶ月後には「あと何本ある?」と数える。
4
抑うつ「代わりになる文具なんてない」
後継品を試す。「悪くはない」と思う。でも「あれじゃない」感が消えない。しばらく文具屋に行く気が失せる。
5
受容「でも、また好きな文具に出会える」
ふとした瞬間に「これいいな」と思える新しい文具に出会う。文具好きはこうして生き延びている。

第3段階の「在庫を買い占める」は、笑い話のようで、文具好きの間では割とリアルな行動です。廃番が発表されると、その商品の在庫が全国の文具好きに瞬時に知れ渡り、翌日にはAmazonの在庫が消え、翌週には転売品が定価の3倍で出回ります。文具は戦場でもあります。

廃番は、その文具が「十分に愛されなかった」
のではなく、「愛した人の数が足りなかった」
ということかもしれない。

廃番の本当の原因はたいてい「売れなかったから」です。どんなに一部のファンに熱狂的に愛されていても、全体の販売数が基準を下回れば生産は終わります。これはビジネスとして当然の論理で、メーカーを責めるのは筋違いです。でも「なんでみんなもっと買わなかったんだ」という気持ちが湧いてくるのも正直なところです。廃番になる前にもっとおすすめしておけばよかった、と思う文具が誰にでも一本はあるはずです。

そう考えると、「文具の話を人にする」という行為は、単なる布教活動ではなく、好きな文具を廃番から救う社会貢献でもあります。文具好きが熱く語りすぎて引かれる現象がありますが、あれは廃番防止活動の一環です。これからは引かれながらも語り続けましょう。文具のために。

最後に、廃番と向き合うための心構えを一つ。「いつかなくなるかもしれないから、今使う」。限定カラーを引き出しに眠らせている場合じゃないし、気に入ったペンは毎日使うべきだし、好きなノートは惜しまず開くべきです。廃番になってから「もっと使えばよかった」と後悔するより、今この瞬間に全力で使い倒す。それが文具好きの、廃番への最良の向き合い方だと思っています。

……とはいえ、在庫を20本確保している廃番のペンが引き出しにあることは、ここでは黙っておきます。

📌 廃番との向き合い方、3箇条

①「いつかなくなるかもしれない」と思いながら、今日も使う。好きな文具は惜しまず使い倒す。

②好きな文具は人に語る。布教は廃番防止活動でもある。引かれても語る。文具のために。

③在庫の買い占めは……まあ、気持ちはわかります。ほどほどに。転売はだめです。