万年筆を一本だけ選べ、と言われたら困る。

書き味だけなら、もっと滑らかなものがある。軸の美しさなら、もっと高級なものもある。所有する喜びという話になれば、金属軸や金ペンの万年筆にはかなわない。

それでも、

「普段いちばん気軽に手が伸びる万年筆は?」

と聞かれたら、私はかなりの確率でLAMY safari(ラミー サファリ)を挙げる。

机の上に転がしておける。
ペンケースにも突っ込める。
ノートを一行だけ書くときにも使えるし、何ページも書き続けるときにも使える。

そして何より、見ればすぐサファリだと分かる。

大きなワイヤークリップ。少し平べったい胴軸。指を置く場所が決められたグリップ。そして、横腹にぽつんと開いたインク窓。

改めて見ると、ずいぶん変わった万年筆だ。

それなのに、この形がずっと古びない。

私はそこが、たまらなく好きだ。

万年筆なのに、ちっとも偉そうじゃない

初めてサファリを見たとき、「これが万年筆なのか」と思った人は多いのではないだろうか。

万年筆という言葉から想像するのは、黒や濃紺の艶やかな軸だったりする。金色のクリップ。金色のペン先。キャップをゆっくり回して外して、少し姿勢を正して書く。そんな世界だ。

でも、サファリにはその感じがほとんどない。黄色だったり、赤だったり、青だったり。樹脂製のボディに、大きな金属クリップが一本。文具店の高級筆記具コーナーというより、普段使いのペンが並ぶ棚に置かれていても違和感がない。

それもそのはずで、サファリは1980年に登場したときから、若い世代が日常で使う筆記具として考えられていた。だからこのペンには、万年筆を必要以上に難しく見せる部分がない。

これは、サファリのかなり大事なところだと思っている。万年筆という道具には、どうしても少しだけ敷居がある。ペン先の向き。インクの入れ方。紙との相性。使ったあとに乾かないのか。落としたらどうしよう。初めて触ると、妙に気を遣ってしまう。

サファリは、その緊張感をかなり薄くしてくれる。キャップを外して、握って、書く。それでいい。

まず一本選ぶなら、定番色からでもいい

サファリにはかなり多くのカラーがある。最初の一本なら、個人的にはイエロー、ブラック、ホワイトあたりの定番色が選びやすいと思う。

なかでもイエローは、遠くから見ても「サファリだ」と分かる。ブラックは一転して道具感が強くなるし、ホワイトは机の上に置いたときに妙にすっきりして見える。

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もちろん、見た瞬間に好きになった色を選ぶのが一番いい。サファリは、性能比較を延々としてから買うというより、色を見て「これだ」と選ぶ楽しさのある万年筆でもある。

そして後になって別の色が気になり始める。ここからが、少し危ない。

あの三角グリップには、ちゃんと理由がある

サファリを初めて握った人が、まず気づくのがグリップだ。丸くない。指を置く場所が、最初から決まっている。

親指と人差し指が自然に収まるように面が作られていて、普通に持つとペン先がちょうど紙の方向を向く。これが好きか嫌いかは、かなり分かれると思う。

万年筆をかなり寝かせて持つ人。ペンを独特な角度で握る人。自由に指を置きたい人。そういう人には、サファリのグリップは少しお節介かもしれない。

でも私は好きだ。キャップを外して、何も考えずに握る。すると、ほぼ正しい位置に指が来る。万年筆を使うという小さな儀式を、サファリはずいぶん簡単にしてしまった。

初めて使う人にサファリを勧めやすいのも、ここに理由がある。「この辺を持って、こう書けばいいですよ」と説明する必要がほとんどない。ペンそのものが教えてくれる。

軽い。だから、本当に使う

サファリを手に取ったとき、意外に感じるのが軽さだ。万年筆に重さを求める人もいる。金属軸のずっしりした筆記具には、確かに独特の気持ちよさがある。机に置いたときの存在感も違う。

でも日常では、軽いペンが強い。私はサファリを使うたびにそう思う。

会議中に長くメモを取っても疲れにくい。ノートを何ページも書いても苦にならない。電話しながらメモするときにも使える。ちょっとした買い物リストを書くのにも使える。

万年筆なのに、「今日は万年筆を使うぞ」と気合いを入れなくていい。これはかなり大きい。

良い筆記具を持っていても、使わなければ意味がない。高価すぎると、傷を付けたくなくてケースに入れっぱなしになることもある。サファリには、それがない。

もちろん大事にはする。でも、大事にしすぎなくていい。この距離感が絶妙なのだ。

傷も、少し似合う

サファリは樹脂軸なので、長く使っていると細かい傷が付く。クリップの周辺が少し擦れたり、キャップに小さな跡が残ったりすることもある。

それを嫌う人もいるだろう。私は、むしろ少し好きだ。高級万年筆の傷は、場合によってはかなり落ち込む。でもサファリの傷は、なぜか「使った跡」に見える。

学生時代から使っているサファリ。仕事で何年も使っているサファリ。旅行に持っていったサファリ。インクの色を何度も変えたサファリ。

新品のサファリはもちろんきれいだけれど、少し使い込まれたものにも妙な格好よさがある。道具として生きている感じがする。

クリップだけでサファリだと分かる

そしてサファリについて語るなら、あのクリップを無視するわけにはいかない。大きな針金を曲げたようなワイヤークリップ。あれほど単純なのに、遠くから見てもサファリだと分かる。

私はこのクリップが本当に好きで、ペンケースから何本かペンが見えているとき、あの形が一本混じっているだけで妙に嬉しくなる。

デザインというものは、装飾を増やせば個性的になるわけではない。サファリを見るたびに、それを思う。必要なものしか付いていない。それなのに、誰にも似ていない。かなりすごいことだ。

しかもこのクリップは、見た目だけではない。ノートやポケットに挟みやすい。少し厚めの場所にも引っ掛けやすい。大胆な形なのに、ちゃんと道具として意味がある。

サファリのデザインは、こういうところがいい。「見た目のためだけに付けました」というものが、あまりない。

インク窓まで、ちゃんとサファリらしい

私はサファリのインク窓も好きだ。胴軸に小さな穴が二つ開いていて、そこからインク残量が見える。極めて実用的だ。

インクが少なくなっていれば、そろそろ交換しようと分かる。それだけの機能なのに、サファリの外観を構成する重要な要素にもなっている。あの穴がなくなると、たぶんサファリはかなり普通のペンに見える。

実用品のための形が、そのままデザインになる。クリップもそう。グリップもそう。インク窓もそう。サファリには、この考え方が一貫している。

書き味だって、ちゃんと楽しい

もちろん、万年筆なので一番大事なのは書くことだ。サファリにはスチール製のペン先が使われている。金ペンのような柔らかさや、ぬるっと紙の上を滑るような感触を期待するペンではない。

比較的素直で、しっかりした書き味。私はそういう印象を持っている。そして、そこもサファリに似合っている。妙に色気のある書き味だったら、少し違う気がする。

カリカリしすぎず、かといってフワフワもしない。ノートを書く。手帳を書く。メモを書く。日常の筆記を淡々とこなしてくれる。

それでいて、ボールペンとは明らかに違う。インクが紙に乗っていく感覚がある。筆圧をかけなくても線が出る。「ああ、万年筆で書いているな」と感じられる。

この辺りのバランスが、サファリの強さだと思う。

EF、F、M。最初の一本はどれを選ぶ?

サファリを買うとき、色と同じくらい悩むのが字幅だ。日本語を書くなら、最初はEFかFから考えるのが分かりやすい。

EF

細かい文字を書く人向き。手帳の狭いスペースや、小さめのノートに文字を詰めて書くなら使いやすい。「普段は0.3〜0.5mmくらいのペンが好き」という人なら、まず候補にしていいと思う。

F

私なら、最初の一本としてかなり勧めやすい。細すぎず、太すぎず。普段のノートや日記、仕事のメモまで対応しやすい。万年筆らしいインクの濃淡も、EFより少し楽しみやすくなる。

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M

文字をやや大きく書く人や、インクそのものを楽しみたい人には面白い。線が太くなるぶんインクの色がしっかり出て、「このインク、こんな色だったのか」と感じることもある。

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一本だけならEFかF。二本目ならM。そんな選び方も楽しい。そしてサファリの場合、この字幅違いが二本目を買う理由にもなる。「同じペンを二本持つ意味ある?」と言われると困るのだが、ある。ファンには、あるのだ。

カートリッジだけでもいい。でも、たぶんインク瓶が欲しくなる

最初はカートリッジで十分だ。空になったら抜く。新しいものを挿す。それでまた書ける。万年筆を初めて使うなら、この簡単さはありがたい。

ただ、サファリをしばらく使っていると、そのうちボトルインクが気になってくる。これはかなり高い確率で起きる。そのとき必要になるのがLAMY Z28コンバーターだ。

コンバーターを使えば、好きなボトルインクを吸入してサファリで使える。ブルーブラックを入れてみる。少しくすんだ緑を入れてみる。赤茶色を入れてみる。季節によって変えてみる。

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インクが変わると、同じサファリでも驚くほど印象が変わる。個人的には、本体を買った時点でコンバーターを一本用意してしまってもいいと思う。

最初はカートリッジ。慣れたらボトルインク。この順番で十分だ。

サファリと一緒に揃えるなら、この3つ

サファリを初めて買うなら、最初から大量の道具を揃える必要はない。最低限なら、このくらいでいい。

    • LAMY safari 万年筆 — 当然ながら本体。色と字幅を選ぶ。迷ったら、好きな色+Fあたりから始めるのが無難だと思う。
    • LAMY T10 インクカートリッジ — とにかく簡単に使いたいならこちら。万年筆初心者なら、最初はカートリッジで十分楽しめる。
    • LAMY Z28 コンバーター — ボトルインクを使いたくなったら必要になる。インク遊びまで楽しみたいなら、最初から一本持っておいて損はない。

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最初から全部揃える必要はない。本体一本を買って、使って、気に入ったら少しずつ増やす。サファリには、そのくらいの始め方が似合っている。

色違いが増えるという、もう一つの問題

サファリ好きにとって、インクより危険なのが本体の色だ。一本持っていれば十分。理屈ではそうだ。でも違う色を見ると欲しくなる。これが困る。

黄色のサファリは、いかにもサファリらしい。黒は急に道具感が増す。白は妙に潔い。赤は文具らしくていい。スケルトンのvistaは内部が見えるせいで、少し機械っぽくなる。

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同じ形なのに、色が変わるだけで印象がかなり違う。さらにスペシャルエディションが出る。すると、また悩む。

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「この色は今までと違う」「一本くらい増えてもいい」「限定だから」

サファリ好きは、こうして自分を説得する。気づいたときには、ペンケースの中に似た形のペンが何本も並んでいる。他人から見れば全部同じなのかもしれない。でも本人には違う。ものすごく違う。

限定色を探すのも、サファリの楽しみ

定番色とは別に、サファリにはその時々でスペシャルエディションが登場する。ここも、サファリを集め始めると危険なところだ。

過去のカラーが気になって検索してしまう。「あ、この色よかったな」と思う。そしてAmazonや楽天市場を見ているうちに、まだ在庫が残っているショップを見つける。これはもう、見つけてしまった側にも責任がある。

定番色ならいつでも買いやすい。限定色は、出会ったときに考える。私はだいたいそうしている。そして、その「考える」が購入につながることも多い。困ったものだ。

ペンとインクを組み合わせる遊び

サファリを何本か持つようになると、もう一段面白くなる。軸とインクの組み合わせだ。

黄色には黒。白にはブルーブラック。ピンクには少し暗い赤。スケルトンには鮮やかな青。別にルールはない。むしろ、合わなそうな組み合わせを試すのも楽しい。

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この「色のある万年筆」という存在自体が、サファリの魅力の一つだと思う。黒軸の万年筆では、インクの色が主役になる。サファリでは軸の色とインクの色、両方で遊べる。

筆記具というより、少しファッションに近い感覚さえある。今日はどれを持つか。そう考えるのが楽しい。

高級感は、ない

ここまでサファリを褒めてきたので、一つ言っておきたい。高級感はあまりない。樹脂の軸は軽い。キャップはパチンと閉まる。軸を眺めながら「美しい漆だな」と楽しむような世界でもない。

三角形のグリップが合わない人もいる。もっと滑らかな書き味の万年筆もいくらでもある。もっと軸の質感がいい万年筆もある。もちろん、もっと所有欲を満たしてくれる万年筆もある。

でも私は、それをサファリの欠点だとはあまり思っていない。もしサファリが金属製になって、ずっしり重くなって、金色の装飾が増えて、数万円するようになったら。たぶん、それはもうサファリではない。

気軽で、丈夫で、少しポップ。でもデザインには一本筋が通っている。それでいい。むしろ、それがいい。

「安い万年筆」ではなく「サファリ」というジャンル

サファリは価格だけを見れば、高級万年筆ではない。だから「入門用」と紹介されることも多い。それ自体は間違っていない。実際、最初の一本としてかなり使いやすい。

ただ、サファリをずっと使っていると、「入門用」という言葉だけでは少し足りない気がしてくる。自転車でいう初心者用。カメラでいう初心者用。そう呼ばれたものは、上位機種を買うと使わなくなることがある。

サファリは少し違う。もっと高い万年筆を買ったあとでも使う。金ペンを持っていても使う。立派な軸の一本を持っていても、結局サファリでメモを取る。卒業しないのだ。

だから私は、サファリを「初心者向け万年筆」と呼ぶより、「サファリという種類の筆記具」だと思っている。他の何かに進むための仮の一本ではない。これ自体で完成している。

こんな人なら、サファリを一度使ってみてほしい

初めて万年筆を使ってみたい人。高級すぎる一本は少し緊張する人。仕事や学校で毎日使える万年筆が欲しい人。カラフルな文房具が好きな人。ボトルインクに興味がある人。そして、文房具を「眺めるもの」ではなく、どんどん使いたい人。

こういう人には、かなり相性がいいと思う。逆に、ずっしりした重量感や金ペンらしい柔らかさ、高級感を第一に求める人なら、別の一本のほうが合うかもしれない。

サファリは万能ではない。でも、サファリにしかない楽しさがある。

学生にも似合うし、大人の机にも似合う

サファリの面白いところは、使う人の年齢をあまり選ばないことだ。学生がペンケースに入れていても自然。大学の講義ノートを書いていても似合う。会社員が会議で使っていても違和感がない。デザイナーの机に置いてあっても似合う。何十年も万年筆を使っている人が持っていても、おかしくない。

若い人向けに生まれた筆記具が、大人にもずっと使われている。これはかなり珍しい。

かわいすぎない。重々しすぎない。カジュアルだけれど、子どもっぽくない。サファリは、その境界線をずっと歩いている。

ペンケースに一本ある安心感

旅行に一本だけ持っていくなら何を選ぶか。仕事用のペンケースに何を入れるか。私はこういう場面でサファリを選びたくなる。

理由は単純だ。気楽だから。少しくらいラフに扱える。インク残量も見える。軽い。壊れ物を持ち歩いているという緊張が少ない。それなのに、書くときはちゃんと万年筆だ。

この安心感は、実際に長く使わないと分かりにくい。サファリには「持っていって大丈夫」という感覚がある。それが結局、使用頻度につながる。

文房具は、使ってなんぼだと思う

私は文房具が好きなので、つい見た目や仕組みについて語りたくなる。でも結局、筆記具は使うものだ。書かないペンは、少し寂しい。

サファリは使わせてくれる。傷を恐れすぎなくていい。インクを惜しまなくていい。机の引き出しにしまい込まなくていい。

今日も使う。明日も使う。しばらく別の万年筆に浮気して、また戻ってくる。そういう付き合い方ができる。おそらく私は、そこが一番好きなのだと思う。

1980年から、ずっとサファリ

サファリが登場したのは1980年。40年以上前の筆記具である。それなのに、2026年の机に置いても古臭く見えない。これはかなり不思議なことだ。

1980年代のパソコン。1980年代の携帯電話。1980年代の家電。今見ると、当然ながら時代を感じる。でもサファリは、その頃に作られた基本的な姿のまま、今も普通に文房具店に並んでいる。

しかも「昔の名品を復刻しました」という扱いではない。現役だ。普通に学生が買う。普通に仕事で使う。普通に新しい色が出る。

40年以上前のデザインなのに、懐古趣味になっていない。この事実だけでも、サファリという筆記具の強さが分かる。

一本目にも。そして、何本目かにも

「初めての万年筆に何がいい?」そう聞かれたら、私は今でもサファリを候補に挙げる。

握り方が分かりやすい。軽い。丈夫。インク交換も難しくない。何より、気軽に使える。

でもサファリを「初めての一本」だけで終わらせるのは、少しもったいない。万年筆を何本も使ったあと。金ペンも使ったあと。重量のある金属軸も使ったあと。久しぶりにサファリを握る。

すると、「ああ、これでいいな」と思う瞬間がある。いや。たぶん正確には、「これがいいな」なのだ。

軽くて、丈夫で、気取っていない。見ればすぐ分かる。書けばちゃんと楽しい。少し傷が付いても似合う。インクで遊べる。色違いまで欲しくなる。

そして気づけば、机のどこかに一本ある。

世界中で長く使われてきた理由を、デザイン史や機能性から難しく説明することもできるのだろう。でもサファリ好きとしては、もっと単純に考えている。

使いたくなるから、残っている。

そして、一度好きになると妙に離れられない。LAMY サファリは、そんな文房具だ。