万年筆には、少しだけ「構えてしまうところ」がある。
キャップを外す。
ペン先の向きを確認する。
紙にそっと置く。
それだけなのに、ボールペンより少し丁寧に扱わなければいけない気がする。
ところが、パイロットのカクノを持つと、その感じが急に薄くなる。
キャップをスポッと外して、ペン先の顔を上にして、書く。なんなら机の上にそのまま置いておく。ノートに数行だけ書いて、またキャップを閉める。それでいい。
私がカクノを好きなのは、たぶんここだ。万年筆を「特別な筆記具」から、普通に毎日使うペンに戻してくれる。
しかも、普通になりすぎない。ちゃんと万年筆の楽しさが残っている。このバランスが、本当にうまい。
ペン先が笑っている
カクノについて最初に語りたいのは、やっぱりあの顔だ。ペン先を見ると、こちらを向いて笑っている。
初めて見たときは、正直ちょっとふざけた万年筆だと思った。でも使ってみると、あの顔にはちゃんと意味がある。
万年筆は、ペン先の向きがある。初めて使う人には、これが少し分かりにくい。カクノは「えがおのマーク」を上にすれば、自然に正しい向きで書けるように考えられている。2013年の発売時から、この仕組みが採用されている。
つまり、かわいいだけではない。説明書を読ませる代わりに、ペン先が教えてくれる。この発想が、ものすごくカクノらしい。
私は今では万年筆の向きを見なくてもだいたい分かる。それでも、キャップを外して顔が見えるとちょっと嬉しい。何本使っても、そこは変わらない。
「子ども向け」で終わらせるには、あまりにもよくできている
カクノは2013年に登場した。もともと万年筆を初めて使うジュニア世代も意識して開発され、鉛筆のような六角形の軸、三本の指が自然に収まりやすいグリップ、ペン先のえがおマークなど、「どうすれば初めてでも迷わず書けるか」がかなり真面目に考えられている。
だから「子どもでも使える万年筆」という説明は正しい。ただ、私はこの言い方が少しもったいないと思っている。大人が使っても、ものすごくいいからだ。
むしろ万年筆を何本か持っている人ほど、「よくできてるな、これ」となる。無駄がない。軽い。握りやすい。インクがちゃんと出る。気軽に使える。そして安い。
万年筆に必要なところをちゃんと残して、それ以外の緊張感を取ってしまったようなペンだ。
六角形なのが、とてもいい
カクノの軸は丸ではなく、鉛筆のような六角形になっている。この形がいい。
まず、机の上で転がりにくい。クリップがなくても困りにくい。そして握ったときに、妙に手に馴染む。
私は昔から鉛筆の六角軸が好きなのだが、カクノには少しその感覚がある。万年筆なのに、鉛筆の延長線上にいる。
これも、カクノを必要以上に偉そうに見せない理由なのかもしれない。透明軸を机に一本置いておくと、万年筆というより「書くための道具」という感じがする。
でもキャップを外せば、そこにはきちんと万年筆のペン先がある。このギャップが好きだ。
11g。この軽さはかなり正義だと思う
現在のカクノは全長131mm、重量は約11g。樹脂製の軸とキャップを使った、とても軽い万年筆だ。
数字だけ見ても軽い。実際に持っても軽い。
高級万年筆には、軸そのものの重さを使って書くような気持ちよさがある。それはそれで好きだ。でも、ノートを何ページも書くとなると話は別だ。
カクノは疲れにくい。授業のノート。仕事のメモ。日記。思いついたことを書き殴るノート。そういう「たくさん書く場面」では、この軽さがかなり効く。
万年筆は所有するだけでも楽しい。でもカクノは、とにかく書きたくなる。そこがいい。
最初の一本なら、私は透明軸を推したい
カクノにはいろいろな色がある。だから好きな色を選べばいい。本当にそれでいいと思う。
ただ、「一色だけ選んで」と言われたら、私は透明軸を推したい。
カクノの透明軸は2017年に追加された。内部が見え、入れたインクの色まで楽しめるモデルとして登場している。
これがカクノによく似合う。中に入っているカートリッジが見える。コンバーターも見える。インクが入っている様子も見える。万年筆の仕組みが隠されていない。
しかも、透明だから少し実験器具っぽい。私はそこが好きだ。妙にきれいに飾られた万年筆ではなく、「中はこうなっています」と全部見せてしまう。
カクノには、このくらい無邪気な方が似合う。
まずカクノを一本買うなら
初めてなら、透明軸+F。これはかなりいい組み合わせだと思う。
細かい字を書くなら、透明軸+EFもいい。
Amazonや楽天でカクノを探すなら、まず「軸色」と「字幅」を確認して選びたい。同じカクノでも、この二つで使った感じはかなり変わる。
EF、F、M。どれを買うか
カクノにはEF(極細)、F(細字)、M(中字)の選択肢があるモデルがあり、EFは透明軸の登場時に追加された。
ここは迷う。文具好きとしては、この迷っている時間も楽しいのだけれど。
EF
小さい字を書くなら、かなり使いやすい。手帳。小さめのノート。細かいメモ。漢字をたくさん書く。こういう用途ならEFは便利だ。
そして、パイロットらしい細字を楽しみたいなら、私は一度使ってみてほしいと思う。カクノだからと侮ってはいけない。普通に気持ちよく細かい字が書ける。
F
一本目なら、私はFを選ぶ。細すぎない。太すぎない。ノートにも使える。日記にも使える。仕事のメモにも使える。「万年筆を使っている感じ」もちゃんとある。
迷ったらF。これはカクノではかなり強い選択肢だと思う。
M
Mも楽しい。線が太くなるので、インクの色がしっかり分かる。ブルーひとつ取っても、細字で書いたときとMで書いたときでは印象が変わる。
ボトルインクをいろいろ試したくなってきたら、Mが一本欲しくなる。そして、こうなる。EFを一本。Fを一本。Mも一本。気がつけばカクノが増えている。カクノ好きには、よくある話だと思っている。
この値段で、このペン先なんだよなあ
カクノを使うたびに、結局ここへ戻ってくる。書き味がいい。もちろん、高級な金ペンと同じではない。そこを比べる意味はないと思う。
カクノには硬めのペン先が使われていて、強めの筆圧でも扱いやすい方向で設計されている。だから、ボールペンや鉛筆から持ち替えても違和感が少ない。
一方で、紙にインクを置いていく万年筆らしい感覚はちゃんとある。これが絶妙だ。
「安いから、このくらい」という感じがあまりしない。むしろ、「これで十分じゃないか」と思う瞬間がある。
いや。十分という言葉もちょっと違う。これがいい。カクノを使っていると、ときどき本気でそう思う。
クリップがないのも、私は好きだ
カクノには基本的にクリップがない。普通の万年筆を見ると、キャップには立派なクリップが付いていることが多い。金属のクリップは、万年筆の顔でもある。
カクノは、それを取ってしまった。その代わり、六角軸だから転がりにくい。発売当初からクリップレスで、ペンケースに収めやすい設計として作られている。
私はこれが好きだ。ポケットに挿す高級筆記具ではない。ペンケースに入れて持ち歩く。机の上に置く。そんなカクノの性格が、そのまま形に出ている。
コンバーターを入れると、突然世界が広がる
カクノはカートリッジだけで使っても十分楽しい。むしろ最初は、それでいいと思う。
カートリッジを差す。インクがペン先まで来るのを少し待つ。書く。簡単だ。
でも、そのうちやりたくなる。ボトルインクを入れたくなる。カクノはカートリッジとコンバーターの両方に対応しており、現在の製品カタログではCON-40とCON-70Nが対応コンバーターとして案内されている。
ここからが危険だ。「せっかくだから青以外を入れてみよう」と思う。緑を入れる。茶色を入れる。少しくすんだ青を入れる。紫を入れる。そのうちインク瓶が増える。
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私は、この流れが大好きだ。カクノは安価な万年筆だけれど、万年筆の世界を安く済ませてくれるペンではない。むしろ入口を思いきり開けてくる。
カクノと一緒に買うなら
本体だけでも始められる。ただ、Amazonや楽天の商品リンクを置くなら、このあたりは一緒に紹介しやすい。
- PILOT カクノ本体 — まずこれ。色とEF・F・Mを確認する。
- PILOT カートリッジインキ — 最初はこれが一番簡単。万年筆に慣れることだけに集中できる。
- PILOT CON-40 / CON-70N — ボトルインクを楽しみたくなったら。カクノは両方に対応している。
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- PILOT 色彩雫 — そして最後にここへ来る。パイロット自身も、コンバーターを使ったボトルインクの楽しみとして「iroshizuku<色彩雫>」を紹介している。
カクノ+色彩雫。これは楽しい。かなり楽しい。
透明軸に好きなインクを入れる楽しさ
透明カクノにコンバーターを入れて、好きなインクを吸わせる。この瞬間はかなりいい。
インクが吸い上がっていく。透明軸だから、それが見える。キャップを閉じても中身が見える。ブルーを入れれば青。緑なら緑。紫なら紫。当たり前なのだが、それが妙に楽しい。
高級万年筆には、インクを内部に美しく隠してしまうものが多い。透明カクノは全部見せる。
万年筆を「完成された高級品」として眺めるのではなく、「インクを入れて使う道具」として見せてくれる。私はそこに愛着を感じる。
「まどろみカラー」を見たとき、やられたと思った
カクノは、もともと元気で明るい印象の強い万年筆だった。ところが2024年12月には「まどろみカラーシリーズ」が登場した。
まどろみピンク、まどろみアイボリー、まどろみブラウン、まどろみブルー、まどろみライトブルーという、落ち着いた5色。FとMが用意されている。
これを見たとき、「ああ、大人にも本気で取りにきたな」と思った。
いい色なのだ。カクノの形はそのまま。でも色だけ少し落ち着く。すると急に、大人の机にも馴染む。
これまで、「カクノは好きだけど、もう少し落ち着いた色が欲しい」と思っていた人なら、一度見てみてほしい。
楽天やAmazonでカクノを紹介する記事なら、通常カラーだけでなく「まどろみカラー」への商品導線を別に置くのはかなり自然だと思う。
普通のカクノをすでに持っている人にも、「この色ならもう一本……」という理由ができる。危険である。
カクノは一本で終わりにくい
カクノを一本持っている。普通なら、それでいい。万年筆は一本あれば書ける。
なのに増える。透明EF。透明F。色付きのM。違うインク用にもう一本。まどろみカラーも一本。
これは性能の問題ではないと思う。カクノは、一本一本をそれほど大げさに考えなくていいからだ。
高級万年筆を三本買うとなれば、かなり悩む。カクノは、「このインク専用にしようかな」という理由で一本増やせてしまう。その気楽さが怖い。そして楽しい。
ペン先の顔まで違ってくる
カクノには「ファミリーシリーズ」もあり、パパ、ママ、ボーイ、ガール、ベビーをイメージした5色の透明軸と、それぞれ異なる顔のペン先が用意された。
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ここまで来ると、もはやペン先を見るだけでも楽しい。万年筆のペン先というのは、本来かなり格好いい部品だ。刻印が入っていたり、金色だったり。眺めて楽しむ場所でもある。
そこに「顔」を付けてしまった。しかも、それが嫌味ではない。カクノだから許される。むしろカクノには、顔がなければ少し寂しい。
高級感はない。そこがいい
カクノに高級感を求めてはいけない。樹脂製で軽い。クリップもない。キャップはシンプル。軸もシンプル。装飾もほとんどない。
でも私は、ここを欠点だとはまったく思わない。むしろカクノに金属製の重いキャップや立派なクリップが付いたら、少し困る。
カクノは、この姿だからいい。ペンケースの奥から出てきてもいい。机に置きっぱなしでもいい。ノートと一緒に鞄へ入れてもいい。そういう万年筆だ。
「初心者向け」という言葉から卒業させたい
カクノを紹介すると、どうしても「初心者向け万年筆」という言葉が出てくる。確かにそうだ。
パイロット自身も「初めての万年筆が、愛着のあるペンになる」という考え方でカクノを展開している。だから、初めての一本として勧めるのは間違っていない。
でも私は、「初心者が使う万年筆」とは思っていない。最初から使える。でも最後まで使える。そんなペンだと思っている。
金ペンを買っても。もっと高級な万年筆を持っても。インク瓶が何十本に増えても。カクノは普通に使う。
いや、むしろ万年筆をいろいろ使ったあとだからこそ、カクノのすごさが分かるところもある。
難しくしなかったこと。重くしなかったこと。偉そうにしなかったこと。安いから削ったのではなく、必要なところだけ残したように見える。
そこが好きだ。
カクノを一本だけ選ぶなら
これから初めて買う人に、私ならこう勧める。
- 細かい字を書くなら、透明軸 EF。
- 普段使いなら、透明軸 F。
- インクの色を楽しむなら、M。
- 落ち着いた色が好きなら、まどろみカラー。
そして最初はカートリッジで使う。気に入ったらコンバーターを買う。好きなボトルインクを一本選ぶ。それで十分だ。
……最初は。たぶん、そのうち二本目が欲しくなる。
「書くの」が楽しくなる。それで十分じゃないか
カクノという名前は、「書くの」が楽しくなることと、六角形の軸を掛けて付けられたものだという。
私はこの名前がすごく好きだ。高性能であることでもない。高級であることでもない。一生ものを名乗るわけでもない。
「書くの」。それだけ。
ノートを開く。キャップを外す。ペン先の顔を見る。紙に置く。スッと線が出る。もう一行書く。なんとなく楽しい。だからまた書く。
文房具って、結局これでいいのではないかと思う。いや。これが一番大事なのかもしれない。
高い万年筆を何本見ても、カクノを見ると欲しくなる。新しい色が出ると気になる。透明軸を見ると、また違うインクを入れたくなる。
そして何本持っていても、「カクノ、いいんだよなあ」と思う。
私にとってカクノは、万年筆の入口ではない。入口でもあるけれど、それだけではない。
何本目の万年筆として買っても、ちゃんと楽しい。そんなペンだ。
